11月1日 高速道路分科会

こんにちは、4年の藤田です。

今回は先日行った高速道路分科会についての活動報告をしようと思います。

スライド94枚分の発表でしたが、ある程度の概要について話をしたいと考えています。

 

発端

先日4年生で卒業旅行に出かけ、各地の高速道路を利用した際、何気なく利用している高速道路はどのような歴史で建設され現在どうなっているのかというところに興味がわいた。

 

目的

日本道路公団への理解を深める

○現在の高速道路会社への理解を深める

○高速道路のあるべき姿を模索する

 

高速道路とは

 

高速道路は高速走行を前提とした設備を持った高規格連絡道路であり、 ヒト、モノの動きを活性化させる効果を持ち、現在全国11,000km以上のネットワークを持つ。高速道路は2種類に分けられ、全国的にまたがる高速自動車国道と国道の隘路を解消する自動車専用道路に分けられる(なお、都市高速道路は定義上高速道路ではない)。

 

道路公団の歴史

昭和20年代に、国土強靭化のため高速道路建設の機運が高まるが、敗戦直後の国家財政は厳しく道路建設の予算がない状況であった。そのため、税金ではなく借入金で高速道路を建設し、利用者の利用料で建設費を賄う償還主義が採用された、これが日本の高速道路が有料となる根拠であり、償還後の高速道路は無料開放されるとされた。そして償還主義による高速道路建設を規定した道路整備特別措置法が昭和31年に制定され、その実働部隊として建設・料金徴収を担当する日本道路公団が誕生した。

 

その後日本の高速道路の整備計画が漸次作られ、昭和38年に名神高速道路尼崎-栗東間が日本で初開業を果たす。しかしこの頃から高速道路が票になると知った政治家たちによる高速道路の誘致合戦が始まり、採算のとれない高速道路の建設が行われる恐れが出てきたため、その歯止めとして昭和42年に国土開発幹線自動車道建設法が制定され、日本各地から2時間で高速道路網にたどり着けるように考えられた1本の日本全国の縦貫線とその枝線からなる7600kmが今後の建設予定路線とされ、これ以上の高速道路は建設されないという形で議論は決着したかに見えた。

 

しかし、建設予定路線から外れた地域の衰退を恐れた地域の首長や地場の政治家がそれで諦めるはずもなくその抜け穴を探し始めた。当時高速自動車国道国土交通省の施工命令が必要とされたが自動車専用道路は道路公団の建設申請による認可制とされたため、政治と癒着した公団は日本各地に将来高速道路になることを夢見た、高速道路規格の自動車専用道路(いわゆる隠れ高速)の建設を行い始めた。しかし当然建設予定から外された理由が採算が見込めないことなのもあり、利用実績が伸びずむしろ利子で負債が増加するという事態に陥った。

 

また道路公団側も赤字路線を持ちやすい体質となっていた。と、いうのも償還主義による高速道路建設円滑化のために昭和47年に全国プール制が導入されたためである。これは建設時期の物価差による高速道路の利用料の差をなくすため高速道路の負債を全国で一括管理するための仕組みで、これにより高速道路利用者の不公平感は減じたものの、赤字の高速道路の補填を黒字の高速道路が行うという仕組みが構築された。昭和62年にはバブルに身を任せた国がこの全国プール制を盾にした第4次全国総合開発計画を制定し、高速道路の整備延長は14,000kmとなり、隠れ高速はみな高速道路に昇格されることが決定した。と同時に本来28年とされていた償還期限はどんどん伸び、この頃には全高速道路の完成から45年後といういつなのかわからない状態となった。

 

このような中で道路公団内部の腐敗も進んでいた。公団OBによる天下りによって受注を獲得する体制が構築されていたほか、採算意識も乏しく、ただ建設認可を獲得するためだけに実際よりも何割も安く予算を申告し、認可を獲得してから実額を報告するカラ実計や、必要もないところに最新技術を盛り込みたがって予算が暴騰するなんてことが横行した。時の藤井治芳 9代道路公団総裁も、「どうせ予測なんて当たらないし 採算性の議論など無駄。 もし赤字ならそのときに あとの人間が考えればいい。」という言葉を残したとされている。なぜここまでして建設がしたいのかというと、公団側としては過去に建設した高速道路の赤字を新規高速道路の建設費(投資)として埋没させたいという事情があったとされる。

 

そんなこんなで気付けば道路公団の抱える負債総額は平成102年には30兆円に達しようとしていた。しかし30兆円の借金があろうと、返済が順調なら何も問題がないわけで、そんな道路公団の償還状況を見てみると、

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30兆円も債務があるのに、実態としては年1000億円しか償還できていなかった。果たして全額償還に何年かかるのだろうかという状態になっていたわけである。

 

道路公団民営化

 

そんな道路公団に対する批判が高まり、ついに小泉政権下で民営化されることとなった。日本道路公団を含め、同じような状況になっていた首都高速道路公団阪神高速道路公団、本四連絡橋公団は以下の目的、方針を持って平成17年に民営化された。

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この4公団は以下のように上下分離方式で6つの組織に分割民営化がされた。

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仕組みとしては高速道路でいうと、NEXCO各社が高速道路の建設と管理および、その他施設の運営を担当し、道路の保有、債務償還は機構が行うこととされた。NEXCOは民営会社であるが、利用者の料金収入で儲けることは許されず、利用料はそのまま機構に償還の原資として充てられるということとなった。そのため、民営化後のNEXCO各社が力を入れたのはサービスエリア、パーキングエリアといった休憩施設であった。この10年でこれらの休憩施設のサービス水準は劇的に向上し、年間売上もこの10年で2割(30億円)程度増加した。また、関連事業も手探りであるが方向性を模索しつつ行われている。

 

では、果たして民営化の目的はどの程度達成されたのかについて検証したい。

①債務返済…▲

予定より早いペースで償還が行われている。ただし、笹子トンネル崩落事故の影響を受け、高速道路に多額の改修費がかかるという試算を盛り込み償還期限が2050年から2065年に延長された。

②工費削減…

民営化により2割程度の公費削減に成功した

(談合制度の廃止、民営化各社への削減額の半額補助というインセンティブ施策の影響)

③料金制度…○

ETCを活用した時間帯割引や企画型プランの販売など価格の弾力化が進んだ

④不必要な高速道路の建設抑制…×

不必要な高速道路を採算のとれない道路とした場合、これは達成されなかった。民営化時の政治的妥協により、整備計画路線14,000kmの中で民営化会社が建設したがらないような赤字路線は税金によって建設され、完成後無料で通行できる新直轄方式にて建設されることが決まり、均一な国土交通網の発展に寄与するという利点が謳われ、この10年で800kmあまりが建設された。

 

海外と比した日本の高速道路

ここで一度、海外の高速道路を見て日本の高速道路について考えたい。日本の高速道路は海外に比べて多すぎる、海外の高速道路は無料といったような話を耳にすることが多いが、結論からすれば、

①日本の高速道路は諸外国に比して多すぎるわけではない

 可住面積あたりの高速道路は確かに多いがそれは必然的な話であり、車両保有台数比としてみれば多いわけではない

 

②海外の高速道路も有料化が最近のトレンド(特に欧米)

 理由1:維持管理費を税金で負担する限界が来ていた

 理由2:混雑緩和のための課金という考え方の普及

 

③日本の高速道路料金は世界一高い

 1kmあたりの走行料金24.6円は各国に比べ高い水準であることは確か、理由はたの交通機関の料金との兼ね合い(公正妥当主義)、国土事情、償還主義があげられる

 

この点も踏まえながら、今後の高速道路のあるべき姿について考えたいと思う。

 

高速道路のあるべき姿

この議論は論点が非常に多く、本当にあるべき高速道路像というものを描くのは非常に難しい。今回立場を国とし、わかりやすく単純な理想設定として

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を設定し、論点を2点設定した。

 

論点①いままでの高速道路 : 旧道路公団の負債は誰が負担すべきか

論点②これからの高速道路 : 新規高速道路の建設をどうすべきか

 

以降の議論について、私は

建設費の負担者に依り、高速道路の提供価値は変わるべき

ということを基本的な思想にして施策を提案していくということを頭の片隅にとどめておくと、話がわかりやすいかと思われる。f:id:mpi-kyoto:20161108093016p:plain

 

論点①について

主張:高速道路の提供価値に合わせた弾力的な料金設定を行う

 

高速道路の負担は誰が行うべきか、というのがこの議論の焦点となる。「国民の納得感」を理想に掲げた以上、一般の道路は無料(税金としての全員負担)とされる中で、従来建設されてきた高速道路が与える受益が国民全員に均等かということを考えると、私は利用者負担が適切な考え方なのではないかと考えた。

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この考え方は、高速道路の価値を「高速通行」、高速料金を「高速通行の対価」だとして考えた場合、他の輸送手段において広く受け入れられた考え方であると言える。

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また高速道路は、高速道路は有料償還という性質上、結果として利用者に選択肢を与えられる場所でのみ 高速走行の価値を有料で提供する道路として整備されてきたという事情を抱えているため、域内移動の国道等と域間移動の高速道路で役割が分離されており、 生活インフラとしての高速道路の重要性はさほど大きくないと考えられる。さらに当然と思われるかもしれないが、高速道路の利用者のうちの殆どが高速移動のために高速道路を使用しており、 なおかつその価値に一定以上の対価を払う意思を持つ人が存在する(1時間の時間短縮に1000円以上払う価値があると答える人間が5割いる)、以上が利用者負担の考え方がが受け入れられると考えた理由である。

 

その上で、現行の高速道路が抱えている問題は何か。それは提供している価値の大きさの如何にかかわらず通行料金が同一なことである。都市圏の交通量と信号が多く通過に時間がかかる地域の高速道路と地方の一般道に信号もない地域の対面通行にある対面通行70km/h制限の高速道路の価格がほぼ同じだからこそ(実際には大都市圏には基本料に20%の傾斜がかかってるとはいえ)、地方の高速道路は利用者がいないから無駄と言われ有効に活用されないのではないか。結果日本の高速道路ネットワークには1日12万台の通過量が存在し渋滞が頻発する区間と、1日170台しか通過量がない区間が存在しているのだと考えられる。

 

そのため私は、現行の高速道路を現行交通量(=一般道と比べた相対的提供価値の大きさ)と最高速度(=物理的提供価値の大きさ)によって分け、提供価値に合わせた弾力的な料金体系を組むことを提案したい。

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実際に東京湾アクアラインやかつての休日1000円高速や、高速道路無料化実験といった施策により高速道路の料金引き下げが通行量を増やすことは証明されており(区間を選ばなかったために酷い渋滞を生んだ例もあったが)、また国民の70%は渋滞を激化させてまで高速道路の価格引き下げを求めていなかったことから、本施策は高速道路の提供価値に適正な価格をつけることで、過疎区間では利用の促進を、都市区間では渋滞の軽減を実現し高速道路の高速通行という価値を最大限保障した上での有効活用を実現するものである。

 

デメリットとしては利用者にとっての価格体系の明示など運用が現状より若干煩雑になることが挙げられるが、 メリットの交通量の適正化がもたらす高速道路の利用効率の向上による経済効果より下回るものだと考えている。

 

論点②について 

 

主張:現道活用をしながら最低限公平となる高速道路ネットワークを構築する

 

ここから、特に新直轄区間として(=税金で)整備する高速道路についての話をしたいと考えている。と、いうのもNEXCOの整備する区間は民営会社の整備という性質上、利益が見込める(=自力償還可能な)区間の建設が中心であり、議論の必要性が低いと考えたからである。

 

現在の高速道路に対する世論は、「現状には満足しているが、整備されるに越したことはない」というものであり、 当然この時代、道路整備より社会保障の優先を求める声が大きいのは事実である。ただ高速道路ネットワークの構築の優先順位づけの関係から、高速道路の整備を求める声には地域間格差があり、 整備が遅れている地方では、市街部での渋滞の解消のための迂回道路、高速道路を求める声がその他都市地域より大きいのが事実である。

 

このような事実より、新規高速道路建設には極力予算をかけるべきではないものの、日本全国のネットワークの公平性を鑑みた道路網の構築が必要ではないかと考えた。また、ここで議論されるようなこれからの新規建設が行われる地域は新直轄方式で建設されるため、「高速通行」を提供価値としてきた今までの高速道路とは違い、より地域に根ざした道路として利用される道路であるべきだと考えられる。

 

これらの点から、今後設定される新直轄区間において、不必要な道路建設は避けつつ 混雑回避を目的とした地方における道路整備の実施を行うことを提案したい。

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新たに整備する区間は高速道路としてというよりかは、高規格な国道のバイパスとして、都心部の迂回や交通の隘路解消など効果が大きく、かつその恩恵が多くの人に行き渡りやすい区間を中心に整備し、山間部など峠越えを除き円滑な交通が実現可能な地域については、現道の活用を積極的に行っていくべきだと考えている。

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以上が今回の発表の全容でした。

拙い発表ではありますが最後までご覧いただきありがとうございました。

 

 

参考文献

日本道路公団―借金30兆円の真相 –NHK

○高速道路無料化の徹底検証 -新井護

○高速道路なぜ料金を払うのか -宮田公男

○日本の高速道路 何が問題か -宮田公男

○Highway Report日本の高速道路 -日本道路公団

○欧米のロードプライシングに関する調査研究報告書 -独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構

高速道路機構海外調査シリーズ連続調査欧米のロードプライシング -独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構

○交通のビジネスモデルと戦略 –澤喜司郎

○交通市場と社会資本の経済学 -杉山武彦